ふつうの湿疹 接触皮膚炎そしてアトピー性皮膚炎

自然免疫と獲得免疫

生体防御系にはマクロファージ,樹状細胞、好中球やNK細胞が担う自然免疫系とT細胞やB細胞が担う獲得免疫系の2つがあります。
自然免疫系は前述のマクロファージや樹状細胞に菌体成分やウイルス由来のDNAやRNAなどのいわゆるPAMPs:Pathogen-associated molecular patternや自己由来の起炎性因子例えばATP、IL33、HSPなどのDAMPs:Damage-associated molecular patternを認識できるToll受容体(TLR)が発現しており、感染や抗原暴露後数時間(4時間から96時間)という短時間で発動されますが、TLRが認識できるリガンドは200個にも満たないのです。
一方獲得免疫系では抗原を抗原提示細胞が取り込みMHC上に提示します。 このMHC上のすべての抗原ペプチドを認識できるようにT細胞やB細胞は遺伝組み換えを使ってTCRやBCRを準備しますが96時間以上の時間がかかります。
 

ナイーブT細胞が抗原提示細胞で活性化される場合(感作相)

抗原低細胞が抗原を取り込み活性化するとCD80、CD86のCO-stimulatorを発現し、所属リンパ節へ移動します。 
樹状細胞による抗原提示のされ方はCD4とCD8T細胞では異なり、さらにCD4T細胞では活性化されるときに存在するサイトカインの種類により分化が決定されます。
ナイーブCD8T細胞への抗原提示はMHCⅠを介して行われます。
MHCⅠはほぼすべての細胞に発現しています。MHCⅠ上に提示されるMHCクラスⅠ分子依存性抗原は細胞質内蛋白、ウイルス、腫瘍細胞抗原など細胞質内で産生された蛋白と一部の外来性抗原です。
例外としてCD8α分子を発現した樹状細胞は、ある種の外来抗原(腫瘍細胞やウイルス感染細胞)を取り込み、MHCクラスⅠ分子に提示することができます。これをクロスプレゼンテーションと呼び樹状細胞に感染しないウイルスや補助シグナルル分子を発現しない腫瘍細胞に対してCD8陽性キラーT細胞を誘導する上で重要となります。
一方MHCクラスⅡ分子依存性抗原は大部分が外来性抗原で、エンドサイトーシスされて取り込まれ分解されMHCⅡ分子に結合したペプチドとして提示されます。
ナイーブCD4T細胞陽性T細胞はMHCクラスⅡ上に提示された抗原を認識するが、同時に樹状細胞がIL12を産生する状況下ではTh1ヘルパーT細胞へ分化し、IL4の存在下で活性化されるとTh2細胞へ分化、TGFβやIL6存在下ではTh17ヘルパー細胞へ分化します。
 

活性化されたT細胞(エフェクターT細胞)が抗原提示細胞に遭遇しエフェクター機能を発現する場合(惹起相)

ウイルスで活性化されたCD8エフェクターT細胞がウイルス粒子をMHCⅠ上に発現している細胞に遭遇するとTCRとMHCⅠが結合、CD8T細胞は活性化され、細胞障害分子パーフォリンでウイルス感染細胞を排除するのです。
エフェクターCD4陽性Th2細胞は同じ抗原を取り込んだB細胞と2次リンパ組織の胚中心で遭遇するとTCRとMHCⅡと結合、さらにT細胞CD40リガンドとB細胞表面のCD40分子の相互作用とTh2細胞から分泌されるIL4により、B細胞の産生する免疫グロブリンがIgM型からIgGやA, IgEへと誘導されます。これをクラススイッチと言います。
エフェクターCD4陽性Th1細胞はマクロファージ上のMHCⅡ分子上に提示されたバクテリア由来の外来抗原を認識し、活性化されINFγを産生しマクロファージの殺菌能を亢進させます。
 

ふつうの湿疹 接触皮膚炎そしてアトピー性皮膚炎

皮膚科外来で湿疹と診断した時、患者さんから原因は何ですか?と問われることがよくあります。
原因がはっきり推定できる場合はよいのですが、推定できない場合も多いのです。
 

ふつうの湿疹

ところが最近「原因となる刺激物質が明らかでない自然免疫応答である一次刺激性接触皮膚炎ICDの総称が湿疹」といわれるようになりました。従来ICDは皮膚に接触した刺激物質に対する誰にでも生じる炎症反応で、免疫系は活性化されないとされていましたが、遺伝的に皮膚バリア障害を持つ患者―特定の遺伝的素因を持つ人に発症しやすいともいわれています。
そして皮膚で最も基本的な獲得免疫反応とされているのがアレルギー性接触皮膚炎です。
 

アレルギー性接触皮膚炎

外来抗原は大きくハプテンと蛋白抗原の2種類に分類できます。ハプテンはウルシ、香料、金属など分子量が1000MW以下の低分子で接触皮膚炎の原因抗原になります。蛋白抗原は花粉、ダニ、動物の毛など分子量が10000MW以上の高分子で主にアトピー性皮膚炎などの原因になります。
ハプテンは低分子のため真皮まで容易に到達することができるため表皮にあるランゲルハンスではなく真皮樹状細胞が重要な働きをしていることがわかりました。
接触皮膚炎は感作相と惹起相からなっています。
感作相では皮膚がハプテンにさらされると表皮細胞が炎症性メディエーターであるTNF-α、IL-1β、PGE2を産生放出し真皮樹状細胞を活性化します。ハプテンは生体内蛋白質と結合し完全抗原となり真皮樹状細胞がこれを取り込みます。真皮樹状細胞は抗原をプロセシングしながら所属リンパ節へ遊走します。その際E-cadherinの産生を低下させる一方、ケモカインレセプターCCR7,CXCR4の発現を上昇させ、そのリガンドであるCCL21,CXCL12が存在するリンパ管を経て、CCL19やCCL21が存在するリンパ節内T細胞領域に向かって遊走します。
リンパ節に遊走した真皮樹状細胞は、補助刺激因子CD80,CD86を発現、MHCクラスⅡに抗原ペプチドを提示しています。ナイーブCD4T細胞のTCRがMHCⅡ上の抗原ペプチドを認識すると同時にCD28と樹状細胞の補助刺激因子が反応しシグナルが増強されます。さらに樹状細胞は抗原提示の際に多量のIL-12を産生した結果ナイーブCD4T細胞は抗原特異的に反応するTh1CD4メモリーT細胞へ分化します。 このTh1CD4メモリーT細胞は皮膚へのホーミング分子であるP-selectin glycoprotein ligand-1やCXCR3を発現し惹起相の際皮膚への遊走に重要な役割を果たします。
一方MHCクラスⅠは通常、細胞質内蛋白、ウイルス、腫瘍細胞抗原など細胞質内で産生された蛋白を提示するが、例外的にCD8αを発現した樹状細胞で外来抗原のMHCクラスⅠによるナイーブCD8T細胞への抗原提示も行われ、抗原特異的CD8陽性Tc1メモリーT細胞(cytotoxic T lymphocyte・Tc・CTL)が誘導されます。これをcrosspresentationと言います。
こうして感作が終了するがこの感作相にはおよそ3~5日間要するといわれています。
惹起相では皮膚が感作相と同一の抗原にさらされると表皮細胞がTNF-αやIL-1αなどの炎症性メディエーターを産生することにより局所血管にE-セレクチンなどの接着因子を発現させるとともに、表皮細胞自身がIP-10/CXCL10などのケモカインを産生することにより抗原特異的CD4陽性Th1細胞や抗原特異的CD8陽性Tc1メモリーT細胞(cytotoxic T lymphocyte)が皮膚に引き寄せられます。そこで抗原提示細胞により再度抗原提示されることにより抗原特異的CD4陽性Th1細胞や抗原特異的CD8陽性Tc1メモリーT細胞はINF-γなどのTh1サイトカインを産生します。
このINF-γが表皮角化細胞に作用し多彩なケモカインを産生して炎症細胞を引き寄せたり、表皮角化細胞のアポトーシスを誘導して湿疹反応を誘発するのです。
また惹起相では皮膚に存在するCD4陽性Foxp3陽性の制御性T細胞が免疫応答を抑制し、皮膚の炎症はTh1やTc1などのエフェクターT細胞と制御性T細胞のバランスで制御されていると考えられています。